完璧からはほど遠い
「い、いえ、全然大丈夫です! 感謝してるんです、本当に!」

「ならよかった。その後は困ってない?」

「指導係も変わったし、平穏な毎日です」

「そう。二人が揉めてた原因は何となく想像つく気もするけど……ここは知らないフリをしておくね」

 先回りされ言われてしまった。成瀬さんには感づかれているかな、と思っていたのだ。

 元カレが身近な子と浮気した、ということだけ伝えてあるが、その情報さえ知っていれば、私と高橋さんの関係は気づくだろう。今日言おうか迷っていた。

 別にあえて言わなくていいよ、と伝えてくれているのだ。なんて気遣いが出来る人だろう。

 ただ……成瀬さんには言ってしまいたかった気持ちもある。いやいや、話の内容が重すぎる、成瀬さんに申し訳ない。

 しかし成瀬さんは、少し迷ったように私に尋ねた。

「ただ、一個だけ聞きたかったんだけど」

「え? はい」

「元に戻る可能性は、あるの?」

 ふんわりとした聞き方だが、私は瞬時にそれを理解した。ハッとして目を丸くする。

 正面にいる成瀬さんは、真剣な瞳の色で私を見ていた。その眼差しにまたもや自分の心臓は痛み、強く首を振った。

「いいえ! 絶対にありません」

 一言ずつ噛みしめるように、私は断言した。

 私は大和とよりを戻すことはない。絶対にだ。気持ちは完全に消え失せているし、想像すらつかない。

 今はそれより、……それより。
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