完璧からはほど遠い
 真剣な顔だった成瀬さんが、ふわっと笑った。そこで自分もハッとし、彼から目をそらす。今、考えていたことを消し去るように、慌てて水を流し込んだ。

「そっか、佐伯さんに彼氏できたら俺、もうご飯もらえなくなっちゃうからね」

「なんだ、ご飯の心配してたんですか」

「うん、ご飯の心配も」

「も?」

「こうして佐伯さんと二人で過ごす時間がなくなるのも」

 ついに心臓が壊れたかと思った。もはやドキドキしすぎて吐くんじゃないかと思うぐらいに暴れだした時、タイミングよく料理が運ばれてきた。私は話題が途切れたこと、料理に意識が移ったことで、この胸の痛みが少し落ち着いたことにほっとした。

 置かれたピザは凄くおいしそうで、普段ならすぐにかぶりつくところだが、私はなぜかお腹がいっぱいだった。さっきまで空腹だったはずなのに、今は全身が何かに満たされ、食欲なんて吹き飛んでしまっていたのだ。




 相変わらず凄い食欲でたくさんの料理を食べつくした成瀬さんと二人、店を出る。もう帰るのかな、と思っていると、彼は買い物を提案してきたのですぐに乗った。普段めんどくさくて出かけることが少ないので、せっかく外に出た日はここぞとばかりに動いておきたいらしい。

 仕事用の靴からプライベートの服まで見て回る。同時に私の服なども一緒に見てくれ、面倒な顔一つせずに似合うと褒めてくれた。特に服なんて欲しいと思っていなかったのだが、そのまま購入してしまった。単純すぎる。

 ゆっくり買い物をし、途中でお茶もし、たっぷり一日堪能した。気が付けば日が落ちてくる空に変わっていた。冬は日が短いことを憎んだ。同じ時刻でも、外が暗くなると帰宅せねば、という気にさせるからだ。

 私たちは両手にいっぱい持った荷物を抱え、ようやく電車に乗り込んだ。

 たくさんの買い物をし、成瀬さんは満足そうにしていた。テーブルをはじめ、欲しいなと思っていたものは大体購入できたらしい。

 やや人が多い電車に揺られ、最寄り駅に到着する。

「いやー買った買った、仕事用のものとかほしかったんだよね。佐伯さんに付き合ってもらってよかった」

「私も買い物してすっきりしました、買い物ってストレス発散になるし」

「あー女の子はそれいうよね」

「成瀬さんは違うんですか?」

「どうだろう。一人で動いて買い物行くのは億劫で仕方ないんだけど、今日は佐伯さんと一緒だったし楽しかった。すっきりした感じあるかも」

 白い歯を出してニコリと笑う。私も笑い返そうとするも、またしても胸の音がうるさくてうまくできなかった。荷物を無駄に持ち直してみたりして平然を装う。
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