完璧からはほど遠い
「佐伯さんの部屋こっち?」
「は、はい」
「どうしたのなんか顔青くない?」
「勢いで誘ったものの部屋はあまりきれいじゃないかもと思いまして」
素直に吐き出してみると、成瀬さんが噴き出して笑った。そして大声で笑い声を上げながら言う。
「いやそれ俺相手に言う? 掃除なんて自分でせずに代行させてばかりの俺に」
「まあ、そうですけど」
「大丈夫大丈夫、俺ほんと気にしないし。気にする人間だと思う?」
「だとしたら玄関にゴミを溜めてないですね……」
「そういうこと。何も気にしなくていいよ」
彼はそう笑っているけど、これは女としてのプライドなのである。相手にはいいところを見せたい、というよくあるもので、それが例え家事力ゼロの相手であろうと、思ってしまうのが性なのだ。
部屋にたどり着き、鍵を開ける。そっとドアを開き、中に入った。成瀬さんのマンションよりは狭い、よくある1Kの部屋だ。
「お邪魔しまーす」
「ど、どうぞ」
一気に緊張度がマックス。成瀬さんが私の部屋に入っている、あの成瀬さんが。彼の部屋に行くことは慣れたが、やはり招待するとなると全然状況が違うのだ。
短い廊下を抜けて部屋に入る。テーブルの上に朝使ったマグカップが置きっぱなしになっていたし、昨晩読んだ雑誌も放ってあった。慌てて片付けようとするも、成瀬さんは拍子抜けしたように言う。
「なんだめちゃくちゃ綺麗じゃん、つまんないぐらい」
「つまんない!?」
「あんな絶望した顔するから、凄い部屋想像してた。まあ、佐伯さんだもん、そんなわけないか。さすがだね、すっきりしてて佐伯さんらしい部屋」
笑って言ってくれる成瀬さんに、なんて返事を返したらいいのか分からなかった。とりあえず座る用促してみる。
「狭いですが、どうぞ座ってください……」
「お邪魔します」
ややサイズの合っていないローテーブルの前に、成瀬さんが腰かける。ああ、自分の部屋に成瀬さんがいる。アンバランスで不思議な画だ。
彼はぐるりと部屋を見渡す。
「少し前に引っ越したんだっけ?」
「はい、前の部屋はもっと狭くて……ここも成瀬さんの家よりは狭いですけど」
「いやいや、俺は荷物ないから広く見えるだけだって。あーテーブルってこれね。うん、確かにちょっと合ってないね。今日見たやつだとどれが合うかな」
彼は真面目に部屋のバランスなどを見て考え出した。なんとなくホッとして、とりあえず簡単にお茶だけ出すと、私は夕飯を作るためにキッチンへ入った。そういう理由で誘ったんだから、ちゃんと作らねば。
でもすぐそばに成瀬さんがいると思うと、やけに気が散る。失敗しなきゃいいけど。
冷蔵庫を覗き込んで、夕飯を何にしようかと考え込む。どうせならたくさん作って、成瀬さんにいくらか持ち帰ってもらおう。じゃがいもがあったよなあ、肉じゃがでも鍋一杯作ろうか。人参も玉ねぎもあるし……
「ねー今日のご飯なに?」
冷蔵庫を覗いていると、突然すぐ背後からそんな声がしたので、驚きで飛び上がってしまった。振り返ると、いつのまに近くに来ていたのか、成瀬さんが私のすぐ後ろに立っていた。
「びっくりした!」
「あはは、猫みたいに飛び上がってた」
「音もなく近づくからです!」
「今日何作るの?」
「え? えっと、じゃがいもとかニンジンがあるので……」
「カレー?」
「いや、肉じゃ」
「カレー???」
「……カレーも出来ますけど」
「やった! 佐伯さんのカレーめちゃくちゃ美味いよね」
「は、はい」
「どうしたのなんか顔青くない?」
「勢いで誘ったものの部屋はあまりきれいじゃないかもと思いまして」
素直に吐き出してみると、成瀬さんが噴き出して笑った。そして大声で笑い声を上げながら言う。
「いやそれ俺相手に言う? 掃除なんて自分でせずに代行させてばかりの俺に」
「まあ、そうですけど」
「大丈夫大丈夫、俺ほんと気にしないし。気にする人間だと思う?」
「だとしたら玄関にゴミを溜めてないですね……」
「そういうこと。何も気にしなくていいよ」
彼はそう笑っているけど、これは女としてのプライドなのである。相手にはいいところを見せたい、というよくあるもので、それが例え家事力ゼロの相手であろうと、思ってしまうのが性なのだ。
部屋にたどり着き、鍵を開ける。そっとドアを開き、中に入った。成瀬さんのマンションよりは狭い、よくある1Kの部屋だ。
「お邪魔しまーす」
「ど、どうぞ」
一気に緊張度がマックス。成瀬さんが私の部屋に入っている、あの成瀬さんが。彼の部屋に行くことは慣れたが、やはり招待するとなると全然状況が違うのだ。
短い廊下を抜けて部屋に入る。テーブルの上に朝使ったマグカップが置きっぱなしになっていたし、昨晩読んだ雑誌も放ってあった。慌てて片付けようとするも、成瀬さんは拍子抜けしたように言う。
「なんだめちゃくちゃ綺麗じゃん、つまんないぐらい」
「つまんない!?」
「あんな絶望した顔するから、凄い部屋想像してた。まあ、佐伯さんだもん、そんなわけないか。さすがだね、すっきりしてて佐伯さんらしい部屋」
笑って言ってくれる成瀬さんに、なんて返事を返したらいいのか分からなかった。とりあえず座る用促してみる。
「狭いですが、どうぞ座ってください……」
「お邪魔します」
ややサイズの合っていないローテーブルの前に、成瀬さんが腰かける。ああ、自分の部屋に成瀬さんがいる。アンバランスで不思議な画だ。
彼はぐるりと部屋を見渡す。
「少し前に引っ越したんだっけ?」
「はい、前の部屋はもっと狭くて……ここも成瀬さんの家よりは狭いですけど」
「いやいや、俺は荷物ないから広く見えるだけだって。あーテーブルってこれね。うん、確かにちょっと合ってないね。今日見たやつだとどれが合うかな」
彼は真面目に部屋のバランスなどを見て考え出した。なんとなくホッとして、とりあえず簡単にお茶だけ出すと、私は夕飯を作るためにキッチンへ入った。そういう理由で誘ったんだから、ちゃんと作らねば。
でもすぐそばに成瀬さんがいると思うと、やけに気が散る。失敗しなきゃいいけど。
冷蔵庫を覗き込んで、夕飯を何にしようかと考え込む。どうせならたくさん作って、成瀬さんにいくらか持ち帰ってもらおう。じゃがいもがあったよなあ、肉じゃがでも鍋一杯作ろうか。人参も玉ねぎもあるし……
「ねー今日のご飯なに?」
冷蔵庫を覗いていると、突然すぐ背後からそんな声がしたので、驚きで飛び上がってしまった。振り返ると、いつのまに近くに来ていたのか、成瀬さんが私のすぐ後ろに立っていた。
「びっくりした!」
「あはは、猫みたいに飛び上がってた」
「音もなく近づくからです!」
「今日何作るの?」
「え? えっと、じゃがいもとかニンジンがあるので……」
「カレー?」
「いや、肉じゃ」
「カレー???」
「……カレーも出来ますけど」
「やった! 佐伯さんのカレーめちゃくちゃ美味いよね」