完璧からはほど遠い
 ガッツポーズで喜ぶ成瀬さん、小学生男子に見えた。この前カレー食べたばっかじゃん、まあ食べたいならいいけど。私のカレーなんてルー溶かすだけだから失敗する確率も低いし。

 私は野菜や肉を取り出し、さっそく調理に取り掛かる。成瀬さんを振り返り、テレビつけていいですよ、と告げた。彼はテーブルの前にちょこんと座り、頷いてテレビをつけてバラエティを見ているようだった。

 テレビの賑やかな声を背に、私は包丁を握る。普段適当に切っている野菜たちを、今日だけはやけに丁寧にカットした。簡単に火を通し煮込む体制にしてしまえば、もう完成まで目前とも言える。

 空いた手で簡単なサラダも作り、時計を見る。もう少し煮なきゃいけないか。そう思い、自分の分のお茶を用意してテーブルに向かった。

 成瀬さんは非常にくつろいでいた。胡坐をかいて座り、テレビに出ている芸人を見て笑っている。あれ、前からこうしてたっけ、そう錯覚するほど馴染んでしまっている。

 座り込んだ私に気づき、彼は笑顔で話しかけてくる。

「この芸人知ってる?」

「見たことはあります、でも名前は知らなかったです」

「めちゃ面白いよ、この前コント見てて笑っちゃった」

 笑顔で話しかけてくる彼に、私も笑って会話を返した。なんて馴染み方。少し緊張してたけど、それが一気にほぐれた。

 成瀬さんはテレビを見ながら言った。

「なんかさー佐伯さんの家って前来たことあるっけ? って感じ」

「あは、私も同じこと思ってました。前から成瀬さんこうしてたっけ、って」

「なんかめちゃくちゃ居心地いいね。気が緩んだら眠くなっちゃいそう」

「成瀬さん寝起き悪いから、ここで寝られると困ります……」

「あはは! だよね、分かってるから大丈夫」

 成瀬さんがいつも通りで少し安心した。居心地が悪いわけではないようだし、引き止めてよかったな、と思った。

 が、それってさ……それだけリラックスしてるって、さ……
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