完璧からはほど遠い
 私がいうのも聞かず、大和は勝手に入り込んだ。靴を適当に脱ぎ捨てて廊下を進んでいく。リビングの扉を開け、笑った。

「あ、今日カレーだ?」

 大和に追いついた私はその服の袖を強く引っ張った。

「入らないでってば!」

「……誰か来てたの?」

 テーブルに残されたままのコップなどを見て、大和が振り返る。私は一瞬迷いつつ、答える。

「……友達」

「あーそっか。ふーん友達ね」

 大和はそう笑うと、キッチンの方へ入る。そしてガスコンロの上に置きっぱなしになっている鍋を覗き込んで言った。

「まだたくさん余ってるじゃん。俺食わせて―志乃のカレー美味いよね」

 成瀬さんと同じように出てきた褒め言葉だったが、私の表情が緩むことはなかった。冷たく言い放つ。

「駄目。それ友達におすそ分けする約束もしてるし私もまだ明日食べるから」

「……冷たいのな」

「どの口が言うの? 別れた相手の家に無理やり上がりこまないで!」

 私がいうと、大和はくるりと踵を返し、先ほど成瀬さんが座っていたテーブルの前にドスンと座り込んだ。意志が固そうなのを感じ取り、私はため息をつきながらとりあえず空のお皿やグラスをシンクに運んだ。そして、彼から距離を取って座り込む。

「何かまだ話したいの?」

 冷たい声で尋ねる。ヨリを戻したい、なんて言ったのをきっぱり断ってから静かだったから、もうあきらめたのかと思っていた。

 そんな私をよそに、大和は何やらポケットを漁っている。そして、光る何かを私に差し出した。それを見て、目が点になる。

 指輪だった。

 光る石のついた、高価そうなもの。どう見ても新しいもので、私は顔をゆがめた。

「な、なに?」

「結婚しよう」



 頭沸いてるのだろうか??

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