完璧からはほど遠い
「だから大和とはもうやり直さない」

「……そんな嘘つくなよ」

「噓じゃない。好きな人が出来たの」

「ふざけんなよ!!」

 突然怒号が鳴り響き、びくっと体が跳ねた。大和は目を吊り上げ、鬼のような形相で私を見ていた。見たことのない表情に体を硬直させる。

「まだそんな時間も経ってないのに? はあ? 浮気じゃん」

「それ本気で言ってるの? 浮気したのはそっちでしょ!」

「そんなぽっと出のやつより、一年以上一緒にいた俺の方が絶対志乃を分かってる。試しでいいからやり直そう、志乃もきっとすぐにわかる。俺たちはあの日までうまく行ってた」

 早口で必死に言ってくる大和を見ながら、ああ私は大和の何が好きだったんだっけ、と思った。

 あんなに好きだったのに。一緒にいるだけで楽しくて、手をつなげば胸はときめき、将来のことだって考えていた。本当に本当に好きだったのに、今はその感覚が欠片も思い出せない。自分でも不思議なほどだ。人は愛をこんなにも簡単に忘れられるものなのか。それともやはり、今は別の恋心を抱いているから?

 戸惑っている私の手を、大和はやや強引に掴んだ。強い力に痛みを覚えて顔をゆがめる。無理やり薬指に指輪を通された。

「ほら、ぴったり。サイズだって俺は知ってた」

「……離してよ」

「同期のみんなも祝福してくれるって」

「他に好きな人がいるんだってば!」

「誰? それ。付き合えそうなの?」
 
 一段と低い声で聞かれ、言葉に詰まった。誰、も言いたくないし、付き合えそうかなんて、答えは言いたくない。
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