完璧からはほど遠い
「でもどうやら、全く異性として見られてないみたいだし、全然成就しそうにないの」

「え、そうなの? そう思ってるのは志乃だけじゃない?」

「部屋に呼んだけど何もそんな雰囲気にならなかったの。駄目だよ」

 呼んだ、と言った瞬間沙織は私を二度見した。随分大胆なことをしたなと感心したのかもしれない。

 一緒にいて楽しんではくれていると思う。でも、きっと友達止まりだ。成瀬さんは私をそんなふうに見ていない。

 沙織は返答に困ったように眉を下げた。それに気づき、慌てて言った。

「ていうか時間! もう行かなきゃ、教えてくれてありがとうね!」

「ううん、同期にはちゃんと言っておくからね、志乃は気を付けるんだよ」

「ありがとう」

 そのまま沙織と別れる。深いため息をついた。私は結局、朝食代わりのジュースすら手に入れられず、手ぶらで仕事場に戻るしかなかった。






 朝一で会議があったのでそちらに向かい、他ごとを考えてしまいそうな頭を必死に仕事モードに切り替えた。以前みたいにプライベートなことでミスを犯してたまるか、という思いでいっぱいだった。
 
 追われるように仕事をこなし、昼前にようやく時間が出来る。朝から何も食べていないので空腹もすごかったが、私は食堂に走るより、まずすることがあった。

 オフィスを出て人気のない場所に行くと、大和に抗議のラインを送ったのだ。本来なら電話で怒鳴ってやりたいぐらいだが、向こうも仕事中だし何より声も聞きたくない。仕方なくスマホの液晶に怒りをぶつけるしかなく、何度も誤字を繰り返しながら、結婚するなんてガセネタを流したことを怒った。

 締めにはくどいぐらいにヨリは戻さない、と書いておいた。果たして、これで噂の訂正をしてくれるかどうか。

 送信したあと、落ち着かずじっと眺めていた。なかなか既読が付かないことにも苛立ち、心がざわめく。そりゃ仕事中なんだからすぐに既読にならなくてもしょうがないのだが、こちらの気にもなってほしい。

 やめやめ。あいつのせいで無駄な時間を過ごすなんてだめだ、空腹だからいら立ちもすごいんだ。

 私はそう自分に言い聞かせ、ようやく食堂に行こうかと足を踏み出した。そこでふと、目の前に誰かが立った。
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