完璧からはほど遠い
とりあえず持ってきた食料は冷蔵庫に入れさせてもらおう、と思い、リビングへ入らせてもらう。改めて見ても、引っ越ししたてのリビングは本当に寂しい。私も一人暮らしして初めはこうだったのにな。
水しかない冷蔵庫に飲み物など詰め込む。よし、あとはメモでも残しておいて、鍵かけてポストに入れておけばいいか。あ、一応解熱剤飲んだばかりだし、少しは熱が下がるか見てから帰宅しようかな。
そう思いながら冷蔵庫の扉を閉め、周りをちらりと見た。勝手に入った手前、ソファに座るのはなんとなく気後れするなあ。私は適当に床に座らせてもらい、ほっと息をつく。
そこではた、と気が付くのだ。
……いつのまにか、大和のことすっかり忘れてた。
今日一日頭から離れなくて、あんな大きなミスをやらかしたというのに、元カレのことは完全に脳内から排除されていた。それだけ必死だったのだ。
でもその事実は、どこか自分の胸を楽にしてくれた。そっか、忘れてたか。なら大丈夫だ、きっとこれからもっと忘れられる。早く忘れるのが一番なんだ、あんな浮気男。
私は確かに、好きだったけど。
膝を抱えてそこに顔を埋めた。でもよりにもよって私の後輩と浮気なんて、許せるはずない。ショックで悔しくて怒りで狂いそうだけど、いつまでも引きずっててもしょうがないんだ。
「忘れてたぞ、ざまーみろ」
誰に言うわけでもなく、私はそう言って一人微笑んだ。同時に、少しだけ泣けた。