完璧からはほど遠い
翌日、いまだに大和からの返信はないし、成瀬さんからの連絡もなかった。カレーを置いておいたので、『来てくれたんだねありがとう』ぐらいメッセージが入るかと思っていたのだ。めんどくさがりだけどそういうお礼はちゃんとしてくれる気がした。でも来なかった。
私は重い体を動かして出勤した。会社に行くと成瀬さんは普通に来ていた。普段通り仕事モードの彼で、涼しい顔をしながら仕事をこなしている。私はそんな横顔を盗み見るしか出来ず、カレーちゃんと食べたのかな、なんてことを思っていた。
帰宅した後、簡単なおかずを作ってまたしても成瀬さんの家へ走った。今日こそ会えるはず、そう信じて部屋に行ってみたが、なんと本日も部屋は真っ暗だったのである。
寒い部屋に一人ぽつんと立ち、泣きたい衝動に駆られた。ただ、シンクには私がカレーを入れて持ってきていた容器が置いてあったので、カレーは食べたんだということだけが救われた。
私はいてもたってもいられず、その場でラインを打ち込んだ。
『こんばんは、今おかずを持ってきています
今日何時頃帰りますか? 話したいことがあります』
入力する手はやや震えていた。返事が来るだろうか、と心配していたのだが、案外それはすぐに来た。
『ありがとう
今会社にいます』
短い文面だが、それを読んでホッとした。そうか、残業してるのか。思えば成瀬さんは大きな案件も色々抱えているし、忙しいのは当然。むしろ今まであまり残業してこなかったのが意外かも。
だがすぐにもう一通、届いた。
『しばらく忙しいから何時に帰るか分かりません
食事も大丈夫です』
「……え」
しばらく、成瀬さんとは二人で会えない?
急にどうしたというのだろう。近いうち何か大きな仕事なんてあったっけ? そうだとしても、食事も持ってこなくていい、って……残業の間に何か買う、ということだろうか。
冷気のこもっている部屋が、なお寒くなったように感じた。全身が凍えそうだ。
何か違和感を感じていた。そう、今までの成瀬さんなら、忙しくなるより前に私に一言言ってくれたんじゃないかなとか、私が話したいって言えばどこかで時間を作ってくれるんじゃないかなとか、そう思ってしまう。だってあまりにも急すぎる。
だがそれは私の自惚れなんだろうか。一緒に出掛けて楽しめたことで、距離が縮んだと勝手に思っていただけなんだろうか。
それとも、避けられるようなことをしたんだろうか。
「……しばらくって、いつよ」
ぶわっと目に涙が浮かんだ。本人に聞いてもよかったけれど、きっと彼は曖昧な答えしか返してくれない、そんな気がした。