完璧からはほど遠い
部屋に入り、冷え切った部屋にエアコンをつけ、二人向かい合って座り込んだ。沙織は温かいお茶を出してくれ、私は落ち着かせるためにもそれを飲んだ。
私はこれまでのことをすべて彼女に話していた。あの生活力がない変人が、成瀬さんだということもついにばらしてしまう。沙織は二回ほど私に名前を聞き返していた。成瀬慶一だ、と繰り返し伝えると、卒倒しそうな顔で一瞬天を仰いだものの、すぐに話の本質に戻った。
いつの間にか片思いしてしまったこと、大和のことを相談したいと思っていたのに急に会えなくなり、今日高橋さんと二人で食事する姿を見てしまったこと。もう自分でも何が何だか分からないくらいショックで、走ってここまで来てしまったこと。
部屋が温まる頃にはもう話は終わってしまっていた。長い物語だった気がするけど、言葉にして説明すると案外短くまとめられるものだ。
すべて説明し終えると、黙っていた沙織が静かに口を開いた。彼女はなんとも複雑な表情をしていて、理解に苦しむような、不思議がるような顔をしている。
「あーえっとーどこから聞こうか……」
「ごめん、突然こんなこと言われてびっくりしたよね……」
「とりあえずー、志乃がそのご飯くんのこと好きなんだろうなーってのは何となく感じてたけど、それがまさか私ですら知ってるあの成瀬さんとは驚かないはずがないよね。はーそうか。あんな完璧人間にそんな欠点が……いやいや、そこはいい、置いておこう。
成瀬さんがあのぶりっ子と一緒に飯に行ったことは許せんが」
「ぶりっ子」
「んーでもなあ。話を聞いてる限り、ぶりっ子に靡いてるわけないと思うんだよなー」
沙織は腕を組んで首を傾げる。私は温かいお茶を両手に包みながら答えた。
「高橋さんは確かにすごく可愛いよ、うちの男性社員もみんなあの子に夢中な感じするし……」
「性格悪くて根性腐ってるくせによ」
「沙織、お言葉が」
「私は正直なだけ。見る目のない大和を先頭とした男たちは置いといてさ、成瀬さんはぶりっ子と揉めたときちゃんと話聞いてくれたわけだし、ちゃんと冷静に見てると思うんだよ。そのあと志乃と出かけて、また出かけようとも言われて……なのに急に」