完璧からはほど遠い
 沙織は肘をつきながら口を尖らせて言う。

「聞いてる限りぶりっ子と付き合うってないと思うけどね。志乃の方がよっぽど好かれてるでしょ」

「私じゃ」

「人の手料理苦手なのに志乃のご飯だけは食べれて、向こうの家の家具まで選ばされて、また出かけようって言われて? そんなんどう見ても……いやいや、だから私の意見は今どうでもいいよねうん。大事なのは志乃がちゃんと本人から聞くことだよ」

 沙織の諭すような声に、ゆっくり頷いた。

 考えてもみなかった、告白するなんて。

 私の好意が向こうに伝われば、この関係が終わってしまいそうで怖いと思った。でも、このままじゃきっと何もしなくても破綻する。だったら最後に、ちゃんと気持ちを伝えてすっきりした方がいいに決まっている。

 そうしよう。

 その方が、自分もすっきりするじゃないか。

「うん、そうだよね。私、言わなきゃいけないよね」

「そうだよ! 一人で悩んでても駄目だよ。別に鍵持ってるんだし、夜中まで居座って待ってればいいじゃん、最後なんだからやりたいようにやっちゃえ!」

 心強い友人の言葉に、勇気を貰えた。私はぎゅっと握りこぶしを作る。

「ありがとう沙織。私、ちゃんと言うよ」

「そうこなくっちゃ!
 そしてもう一つ、あのストーカー野郎はどうするかね。警察呼ぶ?」

 言われて思い出した、大和がいるんだった。私ははあと息を吐く。

「家の前に待ってる、ぐらいじゃ、警察も厳重注意がいいところなんじゃないかな?」

「言えるねえ」

「引っ越しは考えてるんだよね、いい物件がないんだけど」

「落ち着くまでうち泊まっていいよ。でもねえ、引っ越したところで会社は一緒だし、付きまといが終わるわけじゃないよねえ。今更志乃のよさに気づいても遅いんだよバーカ! お前はお呼びでない、成瀬さんを出せ成瀬さんを!」

「はは、大和もどうしてああなったやら」

「でも冗談抜きで、防犯グッズとか持った方がいいかもよ。ニュースでそういうの見たりするしさ。警察より、職場に報告する方がよかったりしないかな? 逆上したら怖いけど」

「ううん……ちょっと考えてみるよ」

 確かに、恋愛関係のもつれで最悪なことに、なんてなるニュースを見たことがある。今まであんなの、自分には無縁だと思っていた。でも最悪パターンは、そういうのもありってこと?

 いやいや! 

「てゆうか浮気して刺されるならまだしも、浮気されたのになんで私が刺されるんだよ!」

 ついテーブルを叩いてしまった。沙織は哀れんだ目で見てくる。

「正論過ぎて何も言えないわ」

「うん、引っ越そう。今日はいい物件なかったけど、もうちょっと見てみる」

「そうしなそうしな。あーあ、成瀬さんの告白が上手く行けば守ってくれると思うのに」

 そう言われて、成瀬さんと付き合えるシーンを想像してみた。

 ああ、どうしよう。

 ソファから一歩動くのも嫌がる成瀬さんが、大和を追い払うシーンなんて想像できない。

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