完璧からはほど遠い
「佐伯さん」
「……ん」
「佐伯さん」
「うう……ん??」
ぱちりと目を開けた瞬間、綺麗な顔が視界に飛び込んできたので、私は思わず変な声を上げた。反射的に起き上がろうとして、背中に痛みを覚える。何が何だか分からず、まず自分の姿を見下ろした。
スーツのまま床に寝そべっていた。そこに、毛布が掛けられている。
「え?」
ぽかんとして顔を上げた。困ったように笑って私を見下ろす成瀬さんを見て、一瞬で記憶がもとに戻る。
しまった、あの後寝てしまっていた!? 少ししたら帰ろうかと思っていたのに!
ばっとリビング奥を見てみると、カーテンの隙間から光が漏れていた。嘘だ、まさか朝を迎えているなんて。
私は慌てて頭を下げた。
「すみません勝手に入った挙句眠ってしまって! その、少ししたら帰るつもりだったんですけど、ほっとしたら寝てしまったみたいです! 前日あまり寝ていないのもあり熟睡してたらしく……」
「待って待って、なんで謝る?
謝るのはこっちだよ。朦朧としてたんだけど、俺佐伯さんにここまで連れてきてもらって看病されたんだよね? ほんと、ごめん」
申し訳なさそうに頭を下げる成瀬さんは、きちんと服を着ていた。私は首を振って返事を返す。
「私のミスのフォローのために寒い雨の中走り回ってくれたせいです。熱、どうですか?」
「まだ全快とは言えないけど、昨夜よりずっといいよ。
夜中ここで寝てる佐伯さんを見つけたんだけど、勝手に移動させるわけにもいかないしそんな時間に起こすのもと思って……こんな寒いところに、大丈夫?」
「あ、この毛布成瀬さんが? 大丈夫です、ありがとうございます」
体にかけてあった毛布を見た。成瀬さんはそんな私を見ながら、腕を組んで唸る。
「せめて温かいコーヒーでもいれてあげられたらいいんだけど、そんなもの俺の家にはなくて」
「ああ、引っ越ししたてなんですよね」
「いや? もう三年以上ここに住んでるよ」