【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「ありがとうございます。このブローチ、とっても欲しかったんです。私がこのブローチを欲しがっていたの、知っていたんですね」

「ええ、店でじっーと見ていたでしょう? 気に入ったのかなと思って」

「バレてましたか」
 
「『女性のささいな仕草を観察して心を察するのが、一流の紳士』――でしょう?」

 以前、ダンスレッスンで私がイアンに教えた紳士の極意だ。

 得意顔で「ちゃんと覚えていたんですよ」と話すアシュレイに、私は思わず笑みをこぼした。

「ちょっ、何で笑うんです? 」

「だって、今のアシュレイ様、褒めて欲しいときのイアン様にそっくりだったから」

「六歳児と一緒にされるのは、ちょっと複雑なんですが……」
 
 私はカーディガンにブローチの針を通そうとするが、金具が固くてなかなか上手くいかない。

 四苦八苦していると「俺が」と言って、アシュレイが隣に座った。
 
 すらりとした長い指で器用にブローチをつける。自然と近くなった距離に鼓動がさらに早くなる。
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