【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「私、体調が悪いわけじゃないんですよ」

「起きちゃ駄目! 僕がトントンしてあげるから、アシュレイが帰ってくるまで良い子で寝てて下さい」
 
 イアンはすっかり看病モードだ。
 
 いつも私がするように、(絶妙に音程が外れている)子守歌をうたったり、(不器用な手つきで)頭を撫でたりして、私のことを寝かしつけ始める。

「なんだかお父さんみたいですね」

「そう? へへっ、ビッキー。いい子、いい子……」

 私を寝かしつけるうちに、自分も眠くなってしまったのだろう。次第にイアンの目がとろんとしてきた。

 しばらくすると私の隣に潜り込んで、こてんと寝落ちしてしまった。

 毛布をかけ直すと「あしゅれー、びっきーをまもってぇ」と寝言をいう。

 愛らしい寝姿に私はふふっと笑って、小さな頭を撫でた。
 
 もうすぐアシュレイが帰ってくると思い安心したためか、私の目蓋も重くなってくる。

 あぁ……だめ、寝ちゃだめよ。
 あの脅迫文を見せて、今後のことを話さなきゃ。
 
 そう思いつつ、強烈な睡魔に襲われた私は目を閉じ、微睡みのふちに落ちていった。


◇◇

 一方、その頃――。

 騎士団本部にある第一部隊の詰め所は、和やかな雰囲気に包まれていた。
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