【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
 本人はそんな理由を語っていたが、諜報部行きを断っているのは、アシュレイの率いる部隊を離れたくないからだと知っている。
 
 チャラい見た目と話し方に反し、仲間意識と忠誠心が強い男なのだ。
 
「了解っす。そのかわり、褒美は必須(マスト)で。一応、王族の身辺調査する訳だから、相応の対価を頂かなきゃ。美味い飯とか酒とか」

「分かった」
 
 ジェイクは「やりぃ!」とガッツポーズしたあと「そういや、酒と言えば……」と別の話題をふってきた。

「最近珍しい酒を集めてますよね。何でです? 隊長、あまり飲まないし、そもそも弱いでしょ?」

 ジェイクの問いに、アシュレイは「まぁ、な」と頷いた。

 
 ビクトリアと晩酌をするようになるまで、アシュレイは酒に興味がなかった。
 
 酒以外にも、タバコ・女性・ギャンブル・パーティ……高位騎士や貴族の男達が好む物には、とことん関心がない。唯一の楽しみといえば、イアンの成長を見守ることくらい。

 面白みのない男だ、味気ない人生だなと、よく同僚や上司に揶揄(やゆ)されたものだ。
 
 自分は一生、他人から見たら『味気なくて勿体ない日々』を送るのだろう。
 ――そう、思っていたのに。
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