【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
 デスクで書類仕事をしたり、雑談しながら情報交換していた部下たちが、一斉にこちらを見た。
 
 すまない仕事に戻ってくれ――とアシュレイが言うと、彼らは戸惑いつつ、それぞれの作業を再開する。

 ……が、やはりこちらが気になるのか。

「おい、隊長に恋人が出来たって?」
「こりゃビッグニュースだぞ!」
「あぁ、我らが『独身騎士の会』の希望の星(ホープ)が……」
 
 ちらちらアシュレイの方を見ながら、部下達は何やら小声で会話をはじめた。
 
(俺は『独身騎士の会』なんてものに入った覚えはないんだが……?)
 
 さっきまで長閑(のどか)だった詰め所が、わずかに賑やかになった。
 
「おい、ジェイク」

 ため息をついたアシュレイが、恨みがましい視線を部下へ向けたその時。

「クラーク隊長! 隊長の屋敷から早馬が来ました! 緊急事態のようです――!」
 
 早馬の受付当番だった騎士が、手紙を片手にアシュレイの元へ駆け寄ってきた。

 その場に緊張が走る。
 手紙を受け取り読んだアシュレイは、すぐさま外套をひっつかみ、周囲の騎士に声をかけた。

「屋敷で緊急案件が発生した。すまない、あとは――」

『頼んだ』と言う前に、部下たちが「任せて下さい」と頷く。

「あとは頼んだ。――ジェイク、場合によっては、秘密裏にお前たちの力を借りるかもしれない。精鋭部隊に声をかけておいてくれるか」
 
「了解しました」

 任せた――とジェイクの肩を叩き、アシュレイは家路を急いだ。
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