【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
 あれ……私、いつの間にか寝ちゃってたんだ……。

 頭を撫ぜられる気配がして、意識がふっと浮上した。

 目を開けると、イアンを抱きかかえ部屋を出て行くアシュレイの後ろ姿が見えた。
 
 帰って来てくれたんだ……。
 
 ベッドから起き上がり身なりを整えていると、戻ってきたアシュレイが私の体を優しく抱きしめた。

「執事から大まかな状況は聞きました。倒れたって? 医者を呼ぼうか?」

「大丈夫です。お仕事中だったのに、急に呼び出してすみません」

「気にしないで。あなた以上に大切なもの、俺にはありませんから」

 アシュレイが隣にいると、どんなに不安なことがあっても大丈夫だと思える。

 圧倒的包容力って感じ、安心するのよね。
 
 私は引き出しに仕舞っておいた手紙を手渡した。

「実は一時間くらい前に、私宛にこんな手紙が届いたんです」

「これが例の脅迫文ですか」

 アシュレイは真剣な顔で手紙を検分した。

「すぐに犯人を見つけます。屋敷の護衛も増やしたから安心して」

 事件の手がかりは、たった一枚の脅迫文。
 便せんは庶民が使う市販の物だし、前世の指紋鑑定のような技術はない。
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