【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「犯人は、騎士の家に脅迫文を送ってくるような人間だ。よほどの考えなしか、もしくは捕まらないという何かしらの自信があるのだろう。各自、警戒を怠らず捜査に当たってくれ」

 アシュレイの言葉に、騎士達が「はい」と真剣な面もちで頷いた。
 その時、部下のひとりが「隊長、ひとつ質問いいっすか?」と挙手する。

「どうした、ジェイク」

「何で騎士団じゃなく隊長の屋敷で会議するんすか? 俺たちがぞろぞろお邪魔したら、ご家族に迷惑でしょう。――ねぇ?」

 ジェイクという騎士が、同意を求めるように私を見る。
 
 厳密には、まだ『ご家族』ではないのだが、騎士達の視線を感じた私は、お茶を淹れていた手を止めて「私は大丈夫です」と微笑んだ。

「先程ジェイクが言った『なぜ騎士団で会議をしないのか』という指摘だが。俺の見立てでは、犯人は貴族の可能性が高いと踏んでいる。騎士団には貴族出身者も多いため、捜査を妨害されないようここを選んだ」

「貴族っすか? その根拠は?」

「手紙に付着した、かすかな『匂い』だ」

「匂い?」
 
 その場の誰もが怪訝な顔をする中、アシュレイが「ビクトリアさん」と私を呼び、質問を投げかけた。
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