【WEB版(書籍化)】バッドエンド目前の悪役令嬢でしたが、気づけば冷徹騎士のお気に入りになっていました
「社交界では、招待状や手紙に香水を振りかけるのが流行(はやり)なんですよね」

「ええ。上位貴族であればあるほど、市販の香水ではなく、調香師に依頼して一点物を作る傾向にあります」
 
 私の返答を受けて、アシュレイが部下達に向き直る。
 
「――ということだ。この脅迫文も、便せんからは匂いがしないものの、インクから微かな香水のかおりがする」

「あ~、なーるほど。普段、匂いつきの便せんに文字を書いているせいで、インクに香水のかおりが移った。そういうことっすかね?」

「俺はそう推察している。加えて、この手紙は新聞の切り抜きではなく崩し文字で書かれている。香水と筆跡。まずはその二点から犯人を特定していこうと思う」
 
 ジェイクが「そういうことなら、お任せを!」と言って立ち上がり、部屋の隅で大人しく伏せっていた警察犬の頭を撫でた。

「ジョン、出番だぞ! お前のその抜群の鼻で、犯人をさくっと見つけてくれ!」

 ピンと耳を立たせたシェパードが手紙に近づき匂いを嗅いだ。そして、貴族たちの手紙や招待状、公文書が積み上げられた机へ向かう。

 一枚嗅いで、違ったらフンと顔を背け、次の紙を確かめる。

 一連の流れは非常にスムーズで、まるで人間の言葉が分かっているかのような無駄のない動きだった。

 とても賢いうえに集中力もあるのか、ジョンと呼ばれたシェパードは黙々と手紙の検分を続けている。
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