【完結】婚約破棄を望んだのに、なぜか愛で埋め尽くされそうです!


 カオルという逃げ道を作って、その道を進もうとしている。

「カオル……」

「頼む。……頼むから、婚約破棄したいなんて言わないでくれ」

 目の前のグラスに入っている氷が溶け出し、カランとグラスの中で音を立てる。
 グラスの外の水滴が滴り、コースターを濡らす。
 
 そのグラスをただ見つめるカオルと私。沈黙が続く中、私はそのグラスを手に取り、グレープフルーツジュースを口にする。

「ミク、俺にはお前だけなんだ。 俺はミクが心から愛おしいんだ。……分かってくれるだろ?」

 どうしてそんなに、悲しい顔をするの? どうして……そんなに潤んだ瞳で私を見るの?

「私は……カオルのこと、傷つけたくないの。愛してもらえるのは嬉しいよ。 でも、やっぱりそれはカオルに対して失礼っていうか……。カオルのことを逃げ道として使ってしまうみたいで、イヤなの、私」

 カオルの気持ちはすごく嬉しい。本当ならこのまま、カオルと逃げてしまいたい。
 でもそれは、やっぱり違う気がするの。これで私がもし幸せになったとしても……カオルを傷付けてしまうだけだと思うの。

「いいよ。俺の腕の中に、逃げればいい。 俺がずっと、お前を捕まえててやる。離れないように」
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