僕の欲しい君の薬指
お人形さんみたいな人だ。初めて顔を合わせる相手の纏う雰囲気と流す空気に圧倒されて言葉が出てこない。
「スキャンダルだけは起こさない珠々が女の子といるなんて珍しいね。それでいてとっても厭な予感がするよ。…で、君は誰なのって訊いているんだけど?」
「す、涼海 月弓と申します」
「大学生?」
「はい」
「一般人?」
「えっと、はい。凡人です」
「ふーん」
「……」
「勿体ない」
「へ?」
サングラスを外して熟れた林檎の様に赤い唇を緩めた彼が、顔を強張らせている榛名さんの腕を絡め取る。「おい、放せ」と投下した榛名さんの低い声が耳に入っていないのか、お人形さんは双眸に私を映したまま逸らさない。
「普通の大学生として燻ぶってるなんて勿体ない。こんなに美しくて人を魅了する雰囲気を有してる人間、芸能界でもそうそういないよ」
“月弓ちゃん、自分が綺麗って自覚ないの?”