僕の欲しい君の薬指
榛名さんの腕に巻き付けている自らのそれにギュッと力を入れてしっかりと拘束しながら、踵を返した彼はこちらへ振り返って開口した。
「例えどれだけ月弓ちゃんが良い子であっても、僕はリーダーとしてメンバーの恋愛は厳しく制限するから」
“その事をよーく、頭に入れておいてね”
穏やかな口調で放たれた一言だったけれど、私にはそれがとても冷たくて辛辣な物に思えた。咄嗟に榛名さんは何かを云おうとしていたものの、それを聞く事が叶わないまま妃良さんは榛名さんの腕を引いて去って行ってしまった。
「……暑くて溶けそう」
残された私の口から転げ落ちた小さな声が、アスファルトから昇る陽炎の中に消えていく。首筋に浮いている汗のせいで後れ毛がべったりと貼り付いている自分の姿が、カーブミラーに映っている。
いつもなら隣に必ず天糸君がいるせいか、鏡の中の自分は何処か寂しそうに見えて思わず苦笑を漏らした。
「結局天糸君のいないこの二日間、ずっと天糸君の事考えてた」
知らぬ間に隅々まで彼に毒されてしまった己の頭と心に、理性が待ったをかけていて私の表情は苦渋の色で塗り潰されていた。
どれだけあの子を意識しない様に意識しても、どうしてもあの子は私の中に現れる。そうしていつだって艶やかに貌を綻ばせて、私の首を絞めて酸素を奪う。
「ただいま月弓ちゃん」
「お帰りなさ……天糸君、苦しいよ」
「やだ。もっと強く抱き締めたいくらい」
「そんな事されたら窒息死しそう」
「僕は、月弓ちゃんが居てくれないと窒息死しちゃう」
「……」
藻掻いても藻掻いても、水面に上がれなくてどんどんどんどん身体は深く沈んで溺れていく。
自宅の玄関。私の身体を雁字搦めに抱き締める彼の腕と体温。そして耳元に直接落ちる彼の甘い甘い声。頬を擽る様に撫でるのは、相手のブロンドの髪。こちらの顔を覗き込んだ翡翠色の瞳が、キラキラと輝いている。
「そんなに蕩けた様な目をしないでよ、月弓ちゃん」
私は意地悪なこの子が憎い。突き放しても突き放しても、私を愛していると云って迫るこの子が恐いし、厭い。