僕の欲しい君の薬指
「んっ…」と甲高い声が漏れた隙に、私の唇を割って口腔内に侵入する舌。抵抗する暇もなく玄関の壁に背中がぴたりと密着し、逃げ道を失った私の指に自らの指を彼が絡め取る。
股と股の間を抉じ開ける様に彼の膝が食い込んで、いとも容易く私の抵抗手段を奪った。
「舌、出して」
「……」
「舌を出してって、僕は云ってるんだよ、月弓ちゃん」
「んんっ…」
容赦なく鎖骨を噛まれ、嚙み痕がくっきりと浮く。痛みで私の顔は歪んでいるのに、天糸君の翡翠色の双眸は悦びと煌めきを増している気がした。
噛まれて痛いはずなのに心臓の奥がドキドキと弾んでいるのは何故なのだろう。胸がキュンと強烈に締め付けられるのは何故だろう。
「ほら、早くしないともっと噛んじゃうよ」
「意地…悪」
「どうしようもなく愛おしいから意地悪もしたくなっちゃうの」
認めたくないけれど、天糸君のいなかったこの二日間。この子の甘ったるい香りが時間を追うごとに薄れていくのが不安だった。心細かった。だから鼻腔を潜り抜けていくこの子の香りに、私は今馬鹿みたいに安心感を覚えてしまっている。
「……」
「ツンツンして素っ気ない月弓ちゃんも可愛いけれど、お利口さんに僕の云う事を聴く月弓ちゃんはもっと可愛いよ」
震えながら口を開いて云われた通りに舌を差し出す私はまるで、天糸君の奴隷みたいだ。
舌なめずりをして相手が獲物を見つけた肉食獣の如く唾を呑んだ刹那、私の舌に熱い彼の舌が重なって融点に達した。
ムカつく。本当に、心底腹が立つ。こんな仕打ちを受けているのにやっぱり弾んでいる心臓が、ムカつく。苦しくて涙が浮かぶのにやっぱりキュンと締め付けられる胸が忌々しい。