僕の欲しい君の薬指
ねぇ天糸君。何度だって云うけれど、私は天糸君が憎いし、恐いし、厭いよ。
「ハァ…ハァ…」
「足りない」
「ハァ…ちょっと…待って…」
「やだ、待てない」
貴方の愛は異常だし、歪だし、狂気的だし、とことん私を生きにくくさせる。ノイローゼになって泣き叫んでも喚いても、貴方はいつも幸せの絶頂かの様に端麗な貌に一際美しい笑みを湛えて「愛してる」と云う十字架を私に背負わせる。
「ねぇ、月弓ちゃん。僕が居なくて寂しかった?」
「……」
「寂しかった?」
だけど天糸君と二人きりの生活が強制的に幕を開けてから初めて貴方がいなくなったこの二日間で、私はつくづく思い知ってしまったらしい。
「……寂し…かった。寂しかったよ」
「……」
「どうして驚いた貌をしてるの?天糸君から訊いてきたんだよ?」
「え…だって…こんなに素直に云ってくれると思わなくって…だから……ああもう反則」
私の目に異常がなければ、天糸君の頬が赤く色づいている。ぐしゃりと表情を崩して苦笑いを零した彼は、宝石よりも綺麗な瞳でこちらを射抜く。
「愛してるよ、月弓ちゃん」
「……」
「月弓ちゃんを閉じ込めてドロドロに思考が溶けるまで愛したい」
“全然まだまだ、愛し足りないの”
私の胸に貌を埋めて視線だけを寄越す彼を眺めてつくづく実感する。例えどれだけ酷い事をされようとも、どれだけ泣かされようとも私は天糸君が嫌いで、好きだ。