僕の欲しい君の薬指
この感情の名前を私は永遠に知らないままで良い。卑怯で狡猾な私は今宵も自分の語彙力の中にあるそれっぽい言葉を掻き集めて、自分の胸の奥で滾っている感情に蓋をする。
やけに大きく感じたこのダブルベッドが今夜は丁度良い。彼のいない二日間、まるで隣に彼が寝るのが当たり前になっているかの様に、私は天糸君の寝るスペースを空けて眠っていた。
眠りから覚めた際に冷たいままの隣を見て、チクリと針で刺される様な痛みを胸が訴えていたけれど、無論臆病な私はその痛みにすら目を瞑った。
「僕のいない二日間、何してた?」
「大学行ってたよ」
「浮気、しなかった?」
私の前髪を指先で掬った相手が、首を横に折る。その瞬間、私の脳裏を駆け巡ったのは榛名さんと食事に行った愉しい光景で、次々と浮かぶ榛名さんの美しい笑みに背筋が冷たくなる。
「浮気も何も、私達はそういう仲じゃないでしょ」
重くなった口をどうにか開いて言葉を紡ぐ。それがシーツの擦れる音の中に消えて数秒後、相手に前髪を掬われた事で露わになった私の額にちゅっと短い口付けが舞い降りた。