僕の欲しい君の薬指


やはり天糸君のいない空間は、私に虚無感だけを突きつける。

こうしている間も天糸君に触れられた処がジリジリと焼ける様に熱を孕んでいて、頭の中は天糸君で埋め尽くされている。


彼の言う通りなのだ。私は彼からの口付けを心の何処かで期待していた。だから咄嗟に目を閉じた。図星を突かれたからこそ焦燥感が拭えないし、理性よりも本能を優先してしまった自分に辟易する。



「気が滅入ってしまいそう」



一人で悶々と考えを巡らせたとて、納得できる言い訳も見つけられないだろう。少し気分転換をして自分の心を整理した方が良いのかもしれない。そう思い立った私は、榛名さんが掲載されるであろう雑誌の発売日が今日だった事を思い出した。


そうだ、天糸君のいない今なら雑誌を買いに行ける。外に出たら気も紛れるし一石二鳥だ。

今の今まで彼がいたこの空間で時間を費やす気にはとてもなれなかった私は、家の鍵と財布だけを持って出掛ける準備を早々に済ませた。


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