僕の欲しい君の薬指



外の風に当たれば可笑しくなってしまった思考回路もマシになるに違いない。彼の甘い香りが充満している空間に背を向けて玄関扉を開け放つ。


天気予報通りの快晴と蒸し暑さが、すぐに私の身体に纏わり付いた。

エアコンが効いている部屋に戻りたくなる欲望を振り払って、玄関の扉をガチャリと閉めたその瞬間だった。



「今回のセンターもお前らしい」

「はーい」

「返事の割には随分と嫌そうだな、天」

「だって最近僕のセンター多くない?」

「隙あらばサボりたがるお前が悪い。センターになったら必然的にサボれないから天にセンターさせるって、綺夏が言ってた」

「はぁ…綺夏も失礼だよ。僕、パフォーマンスで手を抜いた事なんて一度もないのに…ていうかたまには僕を庇ってよ」


“珠々”



聞き馴染んだ声と聞き覚えのある名前が鼓膜を掠めた。自然とその場で立ち止まった私の視線が天糸君の契約している隣の部屋へと伸びる。

最初に私の双眸が映したのは、強い陽射しに晒されて輝く見覚えのある銀髪だった。


「榛名…さん?」


部屋の扉が並ぶ廊下に溶けた私の声に反応する様に、二人が会話を中断してこちらに顔を向けた。全く状況が呑み込めずに酷く動揺している私と同じで、銀髪を揺らしたその人の目はこれでもかと云う程に見開かれていた。



「月弓?」


私の名前を呼んだのは天糸君の中性的で甘い声ではなく、低くて艶のある榛名さんのそれだった。


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