僕の欲しい君の薬指



考えるよりも先に身体が動いていたとはこう云う事なのかもしれない。

彼の作った拳が榛名さんの顔面を殴打する寸前だった。寸前の所で、私は両腕を広げて人を傷つけ様としていた彼の左手にしがみついていた。



「駄目だよ天糸君!!!」



こんな事で暴力沙汰を起こすなんて駄目なの。感情任せに動いたら駄目なの。そんな事をしたら、彼の芸能人生命が絶たれてしまうの。


勢いがあった拳をそのまま包み込んだせいで、鳩尾《みぞおち》部分を痛みが打つ。反射的に表情が痛みで崩れたけれど、そんな事よりも私は天糸君の拳が榛名さんを殴らないで済んだ事に安堵を覚えた。



「月弓…」

「月弓ちゃん…」



私の行動が予想外だったのだろう、両者は揃って目を見開いて私へと視線を投げる。実際、私もこんな風に身体が動いてくれるとは思ってもみなかった。



「ゲホッ…ゲホッ…」

「俺なんかを庇う為に何やってんだよ月弓。痛かっただろう?俺に見せて……「触るな!!!」」



私へと伸ばされた榛名さんの手が、発狂した天糸君によって叩き落される。



「僕の…僕だけの月弓ちゃんだ。誰にも触らせない」



鳩尾の痛みが消えるよりも先に全身が彼の腕の中に閉じ込められる。鍵を掛けるみたいに私の背中に腕を回してギュッと力を込めるそれに安心した。



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