僕の欲しい君の薬指


所謂「お姫様抱っこ」をされている私の脚が、動揺からかバタバタと宙を虚しく切る。多少暴れたくらいではここから脱出できないらしい。

華奢なのに、この子の何処にこんな筋力があるのだろうか。傍で成長を共にしてきたはずなのに、彼が急激に大人びて見えて胸の奥が締め付けられる。



私の手を取った彼の体温はやっぱり冷たかった。自らの頬を私の掌にぴたりとくっ付ける相手が八の字に眉を下げる。



「……してよ」

「え?」

「もっと自分を大切にしてよ。誰よりも自分を大切にしなよ」



いつもの彼らしくない震えた声が降り注いだ。ぐしゃりと音が聞こえそうな勢いで崩れた彼の表情に、視線を奪われる。悲しみと苦しみとそれから怒りが混ざった様な表情すら綺麗だった。



< 146 / 259 >

この作品をシェア

pagetop