僕の欲しい君の薬指
扉の閉まる音が聞こえた時には視界の自由が許されていて、私は身に覚えのない一室に居る事にすぐに気が付いた。そしてこの空間が恐らく天糸君の部屋である事を察した。
生活感がまるでない。深い蒼色に染まっている一室は、私の部屋と同じ造りのはずなのに全く別の空間に見えるから不思議だ。
「あ、あの…天糸君」
「……」
「天糸君」
「……」
幾度となく名前を呼んでも視線すら寄越してくれない彼が激怒している事は明白だった。生きた心地がしない。何せ私は彼との約束を破って秘密裡に榛名さんと接触を図ったのだ。
抱かれたまま下ろされる事の無い身体が彼の腕の拘束から解かれたのは、ふかふかのベッドの上だった。
シーツが私の身体の形に沈む。そこから上体を起こす間も与えて貰えぬまま、彼が私に馬乗りになって翡翠色の瞳で見下ろした。
「言い訳も謝罪も要らないよ」
降り注いだのは意外にも優しい声だった。無表情だった麗しい貌に何とも美しい笑みが咲く。その笑みを消さぬまま、彼が噛みつく様なキスで私の唇を荒々しく塞いだ。
「月弓ちゃんを許さないから安心してね」
それはまるで、死刑宣告の様だった。