僕の欲しい君の薬指


痛くなんかない。彼から与えられる刺激に私はすっかり快楽を見出してしまっている。そのせいで自己嫌悪が募る。溢れていた涙が目尻から零れ落ちて、ポロポロと散っていく。


シーツが擦れるだけで強くなる天糸君の色っぽい香りが、思考回路を溶かす。私の理性を奪い取って、本能に甘い囁きを繰り返す。



「泣いても無駄だよ、今日の僕は本気で怒ってるから」

「し…ってるよ」

「でも泣いた月弓ちゃんのお顔も可愛くて愛おしいよ」

「……ってよ」



“どうせなら、嫌いになってよ”



すぐに空気の中へと消えてしまった自分の本心に嘘をついた言葉に、自嘲的な笑みが浮く。


私はずっと嘘を吐いてばっかりだ。言い訳や御託を見つけては並べて、天糸君や自分までもを騙して生きている。素直になる純粋さを少しも持ち合わせていないこんな最低な私なのに、この子は躊躇わずに抱き締めてくる。



「月弓ちゃん」



彼の情欲が私にあてがわれる。身体は火傷してしまいそうな程に、熱かった。




「心の底から、愛してるよ」



残酷な愛の告白が降り注ぎ、重なるだけの短い口付けが溶けた刹那、高温の熱と圧迫感が下腹部を強烈に貫いた。


嗚呼、遂に私達は超えてはならない一線を超えてしまったんだ。そう理解した途端涙が止まらなくなってハラハラとシーツに舞った。


頑なに譲らなかった物が壊れていく音がする。ベッドが軋み、彼と私の身体が深く繋がっては浅く繋がってを繰り返す。



「んっ…」

「下唇、そんなに噛んだら血が出ちゃうよ」

「ぁあっ…」

「汗が混ざり合って、もう誰が誰の物か分からないね」



抵抗する気力が失せた私に気付いたのか両手首の拘束が解かれ、代わりと云わんばかりに私の左手を彼の左手が丁寧に絡め取ってギュッと握った。

体温と体温が一つに溶け合えば溶け合う程に、私の脳内にあった背徳感や罪悪感や世間体が抹殺されていく感じがした。



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