僕の欲しい君の薬指
天糸君の麗しい貌から「余裕」が消滅したのは初めてかもしれない。濃厚な口付けを施していく彼の首筋を伝った汗が、胸板を撫でた後に私の胸を叩く。
眉間に力を込めて、呼吸を乱す相手には一切の余裕がない。それは私も同様で、口を開けば奇声にも似た甘ったるい声が零れてしまう。少しずつ姿を消していく下腹部の痛みと、少しずつ存在感を露わにする快感。
生まれて初めて経験するそれ等が恐くて肩が震えるけれど、そんな私を見ても天糸君はこれでもかと眼を細めて「可愛い」と台詞を添える。
「月弓ちゃん、僕だけの月弓ちゃん」
「…っっ」
鼓膜が拾えるか否かと云った音量で耳元にそっと言葉を置く彼はやはり、残酷だ。
耳朶をなぞる様に相手の舌が這い、やがて頬を撫でて、言葉にならない声を上げる私の唇をキスで塞ぎ込む。
揺れて、掻き乱されて、空いている右手で頼りなくシーツを手繰り寄せる私を満足気な双眸で見下ろす彼は、妖艶な表情を浮かべて口角を持ち上げた。