僕の欲しい君の薬指
正直、驚きを隠せなかった。私と天糸君の歪な関係性が榛名さんに知られてしまったのだから、厳しい忠告をされるか厭われると覚悟していたのに、どれにも該当しなかった相手の態度に内心酷く動揺している。
榛名さんは、物件紹介の並ぶ画面を一通り目を通してから「そんで、どうなの?」と唐突に質問を投げかけた。
どうなのとは、一体どれの事を指しているのだろうか。そんな頭に浮いている疑問符を察してくれたのか、相手はすぐに開口した。
「俺に返事をしてくれねぇの?」
「……」
「それと、何で家探ししてんの?」
腰を曲げてベンチの背凭れ部分に頬杖を突いた榛名さんと、目線の高さがぴったりと合う。相手の鮮やかな桃色の唇は微かに緩んでいた。
頭の中を碌に整理もしないまま、気付けば口をを割っていた。
「あの」
「ん」
「えっと」
「うん」
「メッセージ送って下さっていたんですね」
「毎日送ってた」
「大変申し上げにくいのですが、天糸君に榛名さんの連絡先を消されてしまって…榛名さんからのメッセージが受信できる状態じゃなかったのです。折角送って下さっていたのにお返事できなくてすみません」
罰の悪い表情を浮かべて頭を下げる。まさか毎日メッセージを送ってくれていただなんて知らなかった。アイドル業も大学生活も多忙なはずなのに、その時間を割いてまで私に連絡をしてくれていた事が純粋に嬉しい。
しかしながら榛名さんの送ってくれたらしいメッセージを、今の私には読む術がない。