僕の欲しい君の薬指
こんな風に自由をあの子に拘束されるのは初めてではない。人間と云う生き物は順応性が高いらしく、いつの間にか天糸君に自由を拘束される事への反抗心は消え失せてしまった。
その証拠に私は、折角仲良くなれた榛名さんの連絡先を彼の手によって消されたのに、嘆きも悲しみもしなかった。憤りを感じる事すら忘れてしまった。
知らぬ間にジワジワと毒された私は、どうやらすっかりあの子の色に染まってしまっているらしい。その事実にたった今気づいて、自嘲的な笑みが漏れる。
「涼海」
「え?」
「月弓の名前を最初に聴いた時に偶然かと思ったけど、俺の勘は正しかったっぽいな。羽生 天は芸名だ。あいつの本当の名前は涼海 天糸」
「それは…「姉弟じゃないにしろ、月弓とあいつは血が繋がっている」」
「…っ」
「図星って顔してんぞ」
“そういう顔も、可愛いのな”
ずっとずっと抱えていた秘密。誰にも覚られまいと隠し続けてきた秘密。
それを初めて暴いた彼は、夏の燦々と照り付ける太陽よりも眩しくはにかんで、私の髪に唇を落とした。