僕の欲しい君の薬指


恐らく私は今、これまでにない位に最悪の状況に立たされているのだろう。天糸君との関係が露呈してしまった。最も恐れていた事が現実になった。両親にも身内にも知られずにやり過ごしてきた秘密を、目前にいる彼に全て知られてしまった。


それなのに、私には焦りも懸念もなかった。独りで背負っていた秘密に榛名さんが触れた事に、緊張の糸がプツリと解けたみたいに安堵して心が休まる様な気がした。



「安心しろ、この秘密を売ったりなんかしないから」

「あり…がとうございます」

「今更で悪いけど、物件を探していた理由は訊いても良い感じ?」



苦笑しながら指先で頬を掻く相手から飛ばされたその問いに、「本当に今更ですね」と吹き出した私は首を縦に振って頷いた。


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