僕の欲しい君の薬指
「榛名さんが言った通り、私と天糸君は従姉弟同士で血が繋がっています。そして榛名さんももうご存知だと思いますが、私と天糸君は…かなり歪な関係性にあります」
「……」
「将来有望な彼とただの平々凡々な大学生の私。誰がどう見てもアンバランスです。それなのにあの子は…天糸君は、こんな何の取り柄もない私に執着してるんです」
狂った情愛が渦巻く海の中。そこに囚われている私は、息苦しさを覚えて藻掻いて藻掻いて溺れている。最初こそは陽射しも届いていた深さで藻掻いていたのに、今では陽射しすら見えない深い所まで沈んでしまった。あとどれくらい自分の酸素が持つかももう分からない。
「このままでは天糸君が駄目になってしまう。彼の将来性を穢す様な事があれば私はとても耐えられない。そう思って、天糸君から距離を置こうとあの手この手で私なりの策を尽くしました」
「だけどあいつは、月弓を追いかけて来たって所か」
「はい。……天糸君は生まれた時から私が傍にいたから無意識に依存して、それを恋愛感情だと勘違いしているんじゃないかって思うんです」
「成る程な。物理的に距離を置けば天が冷静さを取り戻して、月弓に対する異常な執着心もなくなる…そう踏んでる訳か」
「だって可笑しいじゃないですか。遠い世界でキラキラ輝いているあの子が、私を愛してるだなんてあってはいけない事なんです。従姉弟で一般人の人間に執着してるなんて情報が漏洩でもしたら、全てが一瞬で無くなってしまう」
万が一マスコミに知られて、記事になって世間に出たらApisのファンはどう思うだろうか。私の両親は、彼の両親はどう思うだろうか。想像しただけで、足が竦む。恐怖に呑み込まれてしまいそうになる。