僕の欲しい君の薬指

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夏休み前の大事なテスト期間。天糸君のいない環境で彼の束縛なく、思い切り勉強に励めると思っていた私の考えは間違いだった。止まってばかりのペンから視線を外し、飾られている花を何となしに見つめる。


珠々さんの提案に便乗する形で始まった同居生活だけれど、この数日間、私は珠々さんの完璧さに驚かされてばかりだった。時間になると声を掛けられリビングに行くと美味しい食事が準備されている。しかも手作りだった。

新曲のレコーディングが近づいていて殆ど家を空けていたにも関わらず、珠々さんは疲れた顔一つも見せない。花瓶に活けられた花の蕾が開いている様子を見る限り、毎日水替えもされているらしい。


そして今、珠々さんは私の隣で黙々と勉強をしている。銀髪の隙間から覗く真剣な表情はとても綺麗だ。

隙の無い様を目の当たりにした私の脳裏を過ぎるのは、やはり意地悪で妖艶なあの子の麗しい貌だった。珠々さんの作ってくれたご飯を食べていても、お風呂で髪を洗っていても、慣れないベッドに寝て慣れない天井を見ていても、無意識に天糸君の事ばかりを考えてしまう。



自分の心の弱さに辟易しては、数分経つと天糸君は何をしているのかなと又考える。それの繰り返し。

ご飯はちゃんと食べているだろうか。ぐっすり眠れているだろうか。心配しなくとも彼ならそつなくこなすと知っているはずなのに、どうしても気になってしまうのだ。






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