僕の欲しい君の薬指
「僕達アイドルだって人間なんだよ、月弓ちゃん。心を持っているし、感情がある。誰かを好きになるなんて、全く不思議な話じゃない。だけど僕達はアイドルとしてファンの期待に応え続けなければいけない宿命も背負っている」
「おい綺夏、お前さっきから何が言いてぇの?」
「つまりは、ファンの目が付かない所で、ファンの想いを踏みにじらずに恋愛をする。それが僕達アイドルに唯一許可されている恋愛の形なの。言葉にするのは容易だけど、それがどれだけ高い障壁なのかは月弓ちゃんなら分かるでしょう?」
分かるけれど、分からないです。私は天糸君を愛しているし、天糸君に愛されて嬉しいと思っている。だけど、彼に頬を染めているファンを見る度に、彼を見て恍惚とした表情を浮かべるファンを目にするだけで、汚らわしい感情が胸中で蜷局《とぐろ》を巻く。
嗚呼、苦しいな。天糸君から離れればこの息苦しさから解放されると思っていたのに、ちっとも楽になってくれそうにない。
「それを守れないアイドルは、恋愛をする資格はないと僕は思う。その程度のアイドルがメンバーだったのなら、僕はこんな話を持ち出さない。だけど、あの子なら…」
“天なら、そんな障壁を易々と越えちゃうんだよね”
確証でも得ているのか、そう零した妃良さんの麗しい顔には、微笑みが浮いたままだった。