僕の欲しい君の薬指
震える脚に鞭打って立ち上がり、急いで綺夏さんの背中を追う……それを制したのは、背後から私を抱き締めたベルガモットの色っぽい香りだった。
「行くな」
耳を撫でる吐息と、鼓膜を貫く甘くて低い声。伸ばした手が背後から伸びて来た手に捕まれて、相手の指が拘束する様に絡められる。私の手はいよいよ綺夏さんの背中を捕らえる事ができぬまま落ちた。
「…珠々さん、離して…下さい。…天糸君が…っ…天糸君が…」
「無理。離さない。絶対ぇ離さない。月弓を行かせない」
「どうして…ですか。どうして、そんな意地悪するんですか」
自らの胸に回された腕に、瞳から零れた涙がポタリと這う。段々と弱々しくなっていく己の声に、募る恐怖。目の前が途端に真っ暗闇に塗り潰される。
「月弓が好きだから」
「きゃっ」
力を入れて立つのがやっとの状態だった自分の身体が宙に浮き、腕に抱かれたのだと気付いた次の瞬間には、ソファに深く沈んでいた。私の身体に跨る珠々さんの瞳が、いつものそれと様子が違っていた。
「滅茶苦茶にしたいくらい、愛してるから」
投下された台詞に吃驚したのも束の間、私の唇は強引に珠々さんによって奪われた。