僕の欲しい君の薬指



噛み付く様な口付けだった。



重なった部分に急激に熱が集中して、迸る様な熱さに達する。何が起きているのか、自分が今何をされているのか。それを呑み込めないのは、この現実が信じ難い物だからだろう。


見開いた目を独占するのは、貪るかの如く唇を食べる珠々さんの甘い顔。「いや…」咄嗟に零れたその声すらも、重なる唇の中に消えて行く。両腕は相手の脚によって固定されて融通が利かない。相手の唇から逃れようと身体を捩らせてもびくともしてくれない。



頭の中は真っ白で、目の前は真っ暗だ。こんな状況下だと云うのに、天糸君の容態が心配で心配で堪らない。彼の綺麗な腕に点滴の針が打たれているだけでも首が絞められる様な苦しさに襲われる。


彼の身体を案じる権利など私には残されていないのに、こうして珠々さんに制されていなければ、今頃私は迷わず天糸君の元へ真っ直ぐに走って行って愚か者に成り果てていた事だろう。



「ゆっくり俺の物にするつもりだったけど気が変わった。恋敵があいつじゃ、悠長にしてる暇なんてねぇな」

「……」

「月弓、俺に幻滅したか?月弓に注いだ優しさ全てが不純な動機からだって言ったら、俺を蔑《さげす》むか?」



唇が離れ、私の唇の端から垂れる混じった唾液を指先でなぞった相手が、テカテカと光沢を放っているその指を自らの口に入れて舐める。



「だけど、俺が狂ったのは月弓のせいだ」



ゆるゆると口角を持ち上げて妖艶な表情をぶら下げた相手が、私の服を捲って冷や汗が滲んでいる素肌を愛撫した。


< 194 / 259 >

この作品をシェア

pagetop