僕の欲しい君の薬指
天糸君の様子はどうだったのだろうか。ちゃんと意識は回復したのだろうか。ご飯は食べられたのだろうか。天糸君は…天糸君は…天糸君は…。
「天はどうだった?」
流れていた静けさを断ち切ったのは珠々さんだった。ゴクリと、無意識に喉が鳴る。質問をされた綺夏さんは、難しい表情を浮かべている。これから彼の口から告げられる内容は、吉でもなければ凶でもない。そんな気がした。
「意識はまだ戻ってない。過労と精神的に大きな負担があったんじゃないかってお医者様から話があった」
「…そんな」
「明日中には意識が回復するかもしれないからそこまで深刻に考えないでと言われたよ。…でもね、いざ点滴に繋がれて眠ったまま動かない天を見ると胸が張り裂けそうだった。グループの末っ子で一番人気。次のシングルもセンターで、事務所からも僕達Apisのメンバーからも期待を寄せられている天の身体の辛さを分かってやれなかった自分が情けなかった」
俯いている相手の顔が窺えない。ただ、一筋の雫が綺夏さんの頬をなぞり、顎から床へと滴り落ちるのを双眸が捕らえた。「リーダーとしてあるまじき失態だよ」そう付け加えた彼の元より華奢だった背中は、更に小さくなって見えた。