僕の欲しい君の薬指
「お医者様の話の通り明日、天の意識が戻ったとしても最低一週間は絶対安静で入院だって。マネージャーはすぐに事務所やレコード会社に連絡して、次のシングルの発表日を調整できないか駆け回ってる」
「…まぁ、そうなるよな。一週間安静にして退院できたところですぐに完璧なパフォーマンスに持って行くのは難しい」
「その通りだよ、珠々」
「過労だと診断が下ってる時点であいつを無理させる訳にはいかない。どれだけあいつが平気そうにしてても、ちゃんと天も人間だったって事だろ」
「僕が気付けなかった。…悔しい、凄く悔しい。メンバーの事なら全てを把握していたつもりだったのに、天の異変に少しも気付けなかった」
「お前だって連ドラ撮影でロケに行ってたり多忙を極めてただろ。物理的にメンバー全員の管理をするのは厳しい状況だったのに何でお前一人が自分を責めるんだよ」
「だって僕はApisのリーダーなんだよ。ドラマに出演して演技が評価されようとも、バラエティー番組で笑いを取れたとしても、僕は俳優でも芸人でもなくアイドルグループApisのリーダーなの。自分の大切な家族が苦しむ事になるなんて、自分で自分が許せない」
手で顔を覆った綺夏さんの声色から、言葉にならない痛みと悲しみがこれでもかと伝わった。胸がズタズタに引き裂かれたみたいに苦しくなる。これは、自らの軽率な行動一つが起こした結果だ。
この胸の痛みと苦しみは、天糸君とApisのメンバーを傷付けた私の罪への罰だ。
綺夏さんに掛ける言葉は見つからなかった。否、正確には、私には言葉を掛ける資格も権利も何もなかった。
「バーカ」
涙を落とす彼と、苦痛に顔を歪める私。それ等を嘲笑うかの様に言葉を投げたのは、フルーツティーを一気に飲み干した珠々さんだった。