僕の欲しい君の薬指
彼の息遣いが荒い。こうして至近距離で感じると尚の事、彼の身体が無理しているのが分かる。歪曲した笑い声を零し続ける相手に無理をしないでと伝えようとした刹那、伸ばされた手によって首を絞められた。
床に貼り付けにされてしまったみたいに動かない。喉元をぎゅうぎゅうに絞め付ける力は強くなる一方で、酸素濃度の値が減っていくのも明らかだった。自ずと己の顔に苦痛が滲む。
この時の天糸君の手は、冷たかった。氷水に暫く浸けていたのかと思うまでに、冷たかった。
「ねぇ、苦しい?苦しい?月弓ちゃん」
「……」
「月弓ちゃんと会えなかったこの数日間、僕の心はもっと苦しかったよ。息の仕方も忘れるくらいに苦しかったよ」
「あま…と…君…」
「だからね、もっともっと苦しめてやる」
“だって月弓ちゃんを愛してるから”
純真無垢。その言葉がぴったりな翡翠色の瞳の輝きが、これ以上になく不気味で奇怪だった。それなのに私の脳が認識する天糸君はそれはそれは耽美で、自分を殺めようとしているこの子に馬鹿馬鹿しいまでにときめいていた。