僕の欲しい君の薬指
誰もが知ってる羽生 天の狂気に犯された姿に、恍惚と蕩けるのは私の瞳。重くて重くて堪らない彼の情愛の鎖に自らが繋がれているのだと実感して悦に入る私は、この子の云う通り最低な女なのだろう。
「点滴引き抜いて病院から姿を消した僕を、今頃珠々は焦った顔で探してるだろうね」
“ざまぁみろ”
少しずつ少しずつ意識が遠のいていく感覚がする。首に巻き付いた苦しみから解放される気配はない。彼の指圧が強くなればなる程に、この子の私への愛をひしひしと感じられる。
「何の意味もない。アイドルになっても、地位を得ても、一生生活に困らないお金を稼いでも、これっぽちも満たされない。月弓ちゃんと結婚して永遠に僕の物にすると云う夢が叶わない限り、僕が生きている意味もないし空っぽの心が満たされる事もないよ」
「……」
「それなのに月弓ちゃんは、いつもいつも僕を捨てて何処かへ消えようとしてしまう。もう……もう耐えられない」
憂いて嘆く彼は、大変に優艶で美しい限りだった。ふるふると身体と声を震わせながら、瞳孔を開く彼はとろりと目尻を下げて唇に放物線を描いた。