僕の欲しい君の薬指
テレビ画面の向こう側。目を妖しく細めてモナ・リザに引けを取らない美しき微笑を湛えている彼の姿に釘付けになった。ちゅーちゅーとストローを通して吸い込んでいた檸檬紅茶も一時的に断水。
残り僅かな水嵩を残したグラスを手にしたまま、「海月ってあてもなく浮遊している様にしか見えないのに、猛毒を有していて尚且つ綺麗じゃないですか。そんな海月を溺愛しているので、僕の恋人も結婚相手も海月です」そう語っている彼は、ブロンドの髪を耳に掛けて照れ臭そうな表情を浮かべている。
司会者や共演者から「変わってるね」「こんなに美形なのに勿体無い」「だけどアイドルとしては100点だよ」なんて言葉が次々と放たれて、羽生 天に対する『恋愛をした事はある?』と云う質問はすぐに次の質問に移った。
海月を愛してる。彼がこの世に誕生してから十六年、恐らく誰よりも近くで彼を見て来た私ですら彼がこよなく海月を愛している事をつい最近まで知らなかった。
彼の事ならば何でも知っている自信があっただけに、ちょっとだけ…否、かなり悔しかった。
数多くのファンの内の一人くらいはその事実を知っていたのかもしれない。そんな思考を巡らせれば殊更悔しくて、彼の隅々まで知っているのは私だけで充分だと云うエゴイズムに塗れた独占欲が渦を巻いた。