僕の欲しい君の薬指
まだまだ病み上がりだし何十日振りかのオフなのだから、今のうちにゆっくり骨を休めなきゃ駄目だと訴えたけれど「月弓ちゃんに触れてないと心も身体も病んじゃう」と返されてしまっては何も言い返せない。
ふにゃりとだらしない擬音が付きそうな程の笑みを零してしまいそうになって、慌てて頬の筋肉を引き締める。
「退院してからニューシングルリリースに向けての怒涛のスケジュールと、発売してからのプロモーション活動。やっと落ち着いたと思ったのに来週には全国ツアーが始まる」
「仕方ないよ、Apisはメンバー全員が学生だから夏休み中の今がスケジュール組みやすいんだもの」
「……そんな事、知ってるもん。でも寂しいの。折角この家で月弓ちゃんと二人きりの世界に閉じ籠れる様になったのに、全然月弓ちゃんと一緒に過ごせてない」
不満しかありませんと云った顔で唇を尖らせる彼のいじらしい文句に、心臓を鷲掴みされる。相手に押し倒されたと同時に手から滑り落ちて床に転がったグラスから零れた氷が、すっかり溶けて水になっている。
「愛してるよ、月弓ちゃん」
「んん…」
漸く唇を塞いだ甘い甘い高熱に、腰が浮く。床で液体に成り果ててしまった氷の様に、舌と舌が重なって、絡まって、ドロドロに溶けていく。
容赦ない口付けの雨に打たれている最中にも、どんどん服を乱されて開けていく。やがて露わになった素肌に彼の熱が這わされ、私の心が震えた。