僕の欲しい君の薬指
私の髪を丁寧に丁寧になぞって恍惚と笑む相手との距離はたったの数センチと云ったところだろうか。近くで見ても毛穴が一つもない。
髪色と瞳の色が変わっただけなはずなのに、まるで別人だ。高校生の天糸君も十分過ぎるくらいに麗しくて視線を集める人だけれど、素の姿に戻った彼はその比ではない程に美しい。隣で一緒に育ってきたのに、未だに彼の持つ美しさに私は慣れない。
「天糸君、だからこういう事やめてってば」
「だからこういう事ってなぁに?ちゃんと言ってくれないと分からないってば」
「……」
「可愛い顔をそんなに嫌そうに歪めないでよ、月弓ちゃん」
“僕、興奮しちゃう”
何をやめて欲しいのか分かっているのに訊いてくる彼は捻くれているし、歪んでいる。どうせ私が答えたところでやめる気なんて更々ない癖に…。
全く良い性格をしていると思う。現に今だって、こちらの羞恥心を煽ってはクスクス笑って愉しんでいる。
私より三つも年下なのに、彼はいかなる時も私より何枚も上手なのだ。