僕の欲しい君の薬指
「天糸君凄いね」
「急にどうしたの」
「ほら、テレビでApisのニューシングルが披露されてるよ」
「あー、退院して一番最初の収録だった奴だ」
「そうなの!?今更だけどやっぱり無理しちゃ駄目だよ、明日もオフだよね?ゆっくり休まなくちゃ」
「休んでる暇なんてないよ。もっとアイドルとして成功しなきゃいけないからね」
「既に成功してるよ?」
「全然足りないの」
首を横に振って私の左手を取った彼が、傷痕がまだ濃い薬指に噛み付いた。
「僕が成功すればする程、羽生 天を好きでいてくれるファンが増えれば増える程、月弓ちゃんへの監視の目が増えるでしょう?」
「監視の…目?」
「うん!万が一月弓ちゃんが僕から逃げる様な事があったら、前に僕が撮った月弓ちゃんとのツーショット写真を含めて、僕が所有している月弓ちゃんの写真をSNSに投稿するの。そうしたら自ずと嫉妬に狂ったファンが月弓ちゃんを探し出してくれるでしょう?だから僕はもっともっと上に行かなくちゃいけないし、月弓ちゃんの為だから頑張れる」
純真無垢な幼子が夢を語る時に見せる様な表情を浮かべて、興奮しているのか声を弾ませる相手の言葉に背筋が凍り付く。
ずっとずっと、拘束を嫌い自由を好む彼がひたむきにアイドル業を邁進する理由が判然としなかった。文句一つ零さず、ダンスも歌も俳優業もモデル業も受け入れて努力する彼の目的が気になっていた。