僕の欲しい君の薬指



「アイドルだから十八になったらすぐに月弓ちゃんと籍を入れる事ができないのは腹立たしいけれど、背に腹は代えられないよね。僕が三十歳くらいになったらちゃあんと籍を入れるから不安にならないでね月弓ちゃん」

「……」

「その頃には月弓ちゃんの監視網も今よりもっともっと大規模で強固な物になっているから楽しみだね」

「ねぇ…天糸君」

「どうしたの?」

「まさか…」



微かに声が震えていたのは、充分に理解していたつもりだった彼の情愛の重さが私の想像を絶していた物だったからだ。それを突き付けられたからだ。そして首を絞めつける様な息苦しさに襲われていたからだ。



「まさか天糸君がアイドルをしている理由ってこれだけなの?」



投じた質問を受け取った相手は、きょとんとした貌で翡翠色の瞳を縁取る長い睫毛を瞬かせている。それから私の薬指に口付けをして、首をコテンと折った。



「当たり前じゃない。それ以外の理由なんて何もないよ。僕の味方だらけの世界が実現して、僕と月弓ちゃんが結婚して、月弓ちゃんのここに僕とお揃いの指環が嵌められる日が待ち遠しいね。嗚呼、僕の欲しい(月弓ちゃん)の薬指が、正真正銘僕だけの物になる日を想像しただけで興奮するね」



無邪気に破顔した彼は……。



「そう思うでしょう?」


“僕だけの愛おしい月弓ちゃん”


残酷なまでに狂っていて、残酷なまでに耽美だった。




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