僕の欲しい君の薬指
どうしてよりによって私なの。誰もを虜にしてしまう魔性の魅力を持っているのに、どうして他のもっと綺麗で可愛い女の子じゃなくて私なの。
「僕のファンは僕の味方なんだよ、それがどういう意味か分かる?」
「分からない」
「月弓ちゃんが僕の事を悪く言えば言う程、月弓ちゃんは僕のファンから恨まれて憎まれて呪われるんだよ。月弓ちゃんが頼れるのは、僕しかいないの」
「まさか…まさかその為だけに、アイドルをしているの?」
「そうだよ?まぁ、それだけの理由じゃないけれど、月弓ちゃんが僕にしか縋れない状態に陥れる為だけにやりたくもないアイドルをやる事に決めたの」
「そんな…そんな…酷いよ、天糸君」
「可愛い月弓ちゃん」
ハラハラと頬に散った涙。その一粒一粒にキスをした天糸君は、私の左手を取って思い切り薬指に歯を立てた。ズキズキと鋭い痛みが走り、咄嗟に声を上げたのにそれも彼の口付けで塞がれてしまった。
左手薬指に浮いている相手の歯形。それはやがて鬱血痕となり私達の関係が崩壊した印へと変わった。
「僕に愛されて可哀想」
“でも、もう諦めようね”
ニヒルな艶笑をぶら下げた天糸君が、私の生きる世界を窮屈にした。